女性が知らない男の怠惰。

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散々な評価の「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」

シリーズの中でも、評価の低い4作目、「クリスタル・スカルの王国」。

自分は好きだ。

宇宙人やUFOが話に絡んできた為、荒唐無稽なB級映画になってしまった・・・という評価を聞くが、荒唐無稽だったら、1作目の聖櫃(アーク)、2作目のサンカラストーン、3作目の聖杯、の方が余程上だと思っている。今では宇宙人やUFOの方が真実味を感じられる。

 

1作目、「レイダース 失われたアーク」の時には映画人として発展途上だったスピルバーグハリソン・フォードジョン・ウィリアムズ

それぞれが、映画界でも、それぞれ稀有な存在になったのち、このシリーズに帰ってきたのだ。前作から19年ぶりに。

世界中のファンが期待しないわけがない。

 

冒頭、若者たちが乗る車を太陽の光と共に映し出す、と同時に地味なフォントのタイトル文字(およそ20年ぶりの新作というのに、なんてさりげない)

タイトル文字が消えたなと思ったらすぐに、これから短いドッグレースを繰り広げる軍の車が画面に入ってくる。

 

この短いレースに合わせて、キャスト・スタッフの紹介がされるのだが、カメラワークが素晴らしく、一気にスピルバーグの手腕に引き込まれる。(お馴染みの、反射する物に映りこませ、一つの画面で2つの説明をする撮影法だ(ここでは車のホイールとサイドミラー)


Indy 4 - Hot Rod Opening Sequence (HD720p)

インディの登場のさせ方。帽子を被ったシルエットで世界中の観客にヒーローがスクリーンに帰ってきたことを印象的に描いてくれた。ハリソン・フォードが正面から映されたカットのインディ・ジョーンズハリソン・フォード感といったら。

唯一無二、他の俳優が考えられない。

 

前3作の登場シーンと同じで、記憶に残り、後で思い出せる登場シーンだ。(飛行機の中、帽子を深くかぶり眠るシーンもあった。ないのは「最後の聖戦」のみなのでは。このインディが眠るシーンに感じ入る方いるのでは? 何気ないシーンなのだけど、ハリソンフォードは下から撮影しても、もちろん絵になる・・・と思わせるシーンだと思う。スピルバーグもわかっていると思う)

 

昔、淀川長治さんがハリソン・フォードのことをこう言っていた。

「目に沁み込む顔、それがスターの条件」

全く同感です。

 

 

この4作目に、感じるのは怖さ。

3作目までの底に流れていた陽の気が感じられないのだ。2007年製作と言う時代のせいなのか、スピルバーグ自身やスタッフの当然の変化なのか・・・(スピルバーグ自身が暗いと振り返る「魔宮の伝説」。私は荒唐無稽なものと割り切って鑑賞したから、暗いとは思わなかった)

この4作目に自分が感じた”怖さ”は何か?

それは、シリーズ中、一番真実に近いテーマを扱っているのではないか?という点と、エリア51の倉庫内で見つかる異生物や核実験のキノコ雲が妙にリアルなことだ。娯楽映画であれだけリアルなキノコ雲を観たことがない)

 

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想像以上にリアルで不気味なキノコ雲

 

嘲笑うかのように評価されるラストの宇宙船オチだが、これが、もし真実に近いことを描いていたらどうだろう?

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前3作の撮影を担当していたダグラス・スローカムの色彩は明るくハッキリとしていた。今作からは、ヤヌス・カミンスキー

シンドラーのリスト」以降、スピルバーグ作品には欠かせない人で、薄い色調と、要所で光の反射を、品や風格を感じさせて撮影する人だ。スピルバーグが娯楽作と距離を取り始めたころに、ヤヌス・カミンスキーとの仕事が始まっていることも興味深い。

その、カミンスキーがインディジョーンズの絵を撮るということが興味深々だった。

メイキングから得た情報だが、スピルバーグから、「前3作の色合いで撮影してほしい」と注文されていたようだ。

自分は観ていて、インディジョーンズの絵だけど、よい意味で品がよくなったと感じた。光や影の使い方で、より感じ入ることの多い映像が随所にあった。

 

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ヤヌス・カミンスキーの映像は、人物の周りを優しい光が包みこんでいる。

 

 

同じように・・・

例えるならワインのように、熟成され、丸みをおび、味わい深くなったのは、ジョン・ウィリアムズの音楽だ。

メインテーマは、もう4度目のバージョンだが、角がなくなって聴きやすくなったと感じた。(1作目のロンドン交響楽団の演奏の人気が高いのは知っている。重厚だが、自分は荒々しく感じるのだ)

1作目は勇ましく、2作目は軽妙に、3作目は、「これで最後だ」と、少し力の籠った演奏。

そして、この4作目は演奏になめらかさと、力強さ、余裕を感じさせるものだった。

1作目でも演奏されたマリオンのテーマが挿入されるのだが、この4作目のマリオンのテーマの演奏は格別だった。愛のテーマが成熟した愛のテーマになったと感じられたのだ。

 


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ジョン・ウィリアムズ自身、このマリオンのテーマを2008年に編曲し、2016年には新緑している。28年以上前に作曲した曲に、別の思いを馳せて作曲者自身が完全な形に近付ける。その音楽を聴き込んできたファンにとって、なんて贅沢な事だろうと思った。

ジョン・ウィリアムズは最近、スターウォーズ 帝国の逆襲の「ハンとレイアのテーマ」も同じように編曲し熟成させた。どちらも、素晴らしく、奇しくも同じハリソン・フォードが演じている)

 

サントラ2曲目に、「クリスタルの誘い」という曲がある。

自分たちが知り得ない壮大な時間をかけて、はるか昔からのメッセージに触れる。いや触れてはいけないメッセージ。こんなイメージを想起させる神秘的・ミステリアスな曲。アークのテーマや、聖杯のテーマもよかったけど、この「クリスタルの誘い」もよかった。

 

この作品で引退した、ポスターアーティストのドリュー・ストルーザンも忘れてはいけない。「クリスタル・スカルの王国」は数々の印象的な映画ポスターを手掛けてきたアーティストが最後に描いた映画作品でもある。

 

クリスタル・スカルの王国」はまだまだ、語ることのできる作品だ。

スピルバーグ監督の、最新作、「レディプレイヤー1」が公開されるので、思いつくままに書いてみた。

 

 

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